Journal #75

跡を残すこと
- Hand Engraving -

今年のCARAVANで京都を訪れた時のこと。私たちは古いものを扱うミュージアムに立ち寄りました。多くの魅力的な蒐集物の中で、一際目を引く物がありました。

それは、シックな什器の中に佇むヴィンテージのゴールドリング。見た目はとてもシンプルな甲丸のリングで、おそらく誰かの結婚指輪だったもの。よく見ると、中に手彫りの刻印が刻まれているものでした。

リングの内側を見ることは、その人のプライベートな部分に触れたような心地。持ち主は一体どんな人だったのだろう、どんな気持ちを込めて文字を刻んだのだろう。気づけば長い時間、想いを馳せていました。

身につけているときは、リングの内側が見えることはありません。内側に込める刻印は、その人の内面や美意識を表すものにもなるでしょう。ふとした時に他の誰かの目に触れ、その人らしさを示すもの。手彫りの刻印は、今それを施すことの意味合い以上に、これから何十年と時を経た時に始めて、それを刻んだ真価が滲み出てくるものではと思っています。

mederuでは、持ち主の証として文字を刻む手彫り刻印、月桂樹の絵柄を彫り刻んだPreuveと、これから長く時を過ごすマリッジリングの美しい表現として「手彫り」を探求してきました。

手で刻んだ彫り跡は、レーザー刻印などの機械彫刻と比べ、より深くしっかりと、そして滑らかに刻まれます。深く刻まれた文字は、長く時を重ねても消えずに残り続け、手仕事による美しいカリグラフィは、その人の美観を静かに顕します。

これからの未来に、刻んだ跡が残っていく姿を想像します。有限の私たちを越えて、美しいものは少しづつ形を変えながら在り続ける。刻印を刻んでお仕立てするあなただけのリングが、今とこれからを繋ぐものであれたなら嬉しいです。

(アトリエスタッフ・工藤)