#69 翠華揺揺

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#69 翠華揺揺

昔の人々は石に美しい名前を付けてきましたが、翡翠(ひすい)も然り。今季、私たちは初めて翡翠の探求に取り組んでいます。まず初めに感心したのは、その名前でした。

中国では翡翠の"翡"はカワセミの雄、"翠"は雌のことを表しているそうです。カワセミの羽色を思わせる美しさになぞらえ、この石は翡翠と名付けられました。
翡翠を見ていると、楊貴妃について思い浮かべたくなります。かの『長恨歌』には翡翠の文字が幾度か登場します。物語の中では、楊貴妃の髪飾りや彼女を愛した天子の旗の色もまたカワセミの羽に飾られています。美しいものへの愛が、翡翠と重なります。

私たちと共に物作りする山梨の工房には、数十年に渡り集められた翡翠がそこかしこに仕舞われています。伝統工芸である宝石彫刻によく使われてきたものです。
作業の手を止めたところで、蛍光灯の明かりを消して翡翠を見てみました。翡翠は外からの微かな光を受けると、蝋のようにつやつやと光りました。弾くとキンと涼しげな音を鳴らす様も、幽玄で美しいものがあります。

つややかで長く美しい黒髪のことを"翡翠の髪状(かんざし)"と形容しますが、こうした翡翠の表現に先のような漢詩からの共鳴を感じずにはいられません。言葉に織り込まれた美感が、色褪せずにここまで届いてくることに感動を覚えます。

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翡翠は中国でも古くから愛されてきた石です。いまを生きる私たちも、このみどり色に心惹かれました。美しいと思う心が海や時代を超えて通じ合った瞬間、広い世界が一本道になったような嬉しさが湧いてきます。
「Asia is one.」とは岡倉天心の言葉です。装身具より、やきものなどは明快かもしれません。工芸の歴史を俯瞰していくと、この言葉が真に迫ります。

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美しい黒髪に寄り添い揺れる耳飾りーー 翡翠で何かを作ろうと決めた時から、ずっと思い描いていました。その形はオリジナリティと呼ぶより、長く人々の記憶のなかに存在してきたもの、"美しさへの憧れ"とするのがしっくりきています。

megumi kudo