HOME > LIBRARY > MEETS file.07 mangekyo
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都会らしい賑わいのある札幌からほんの一駅。広い空とゆったりとした静けさが、北海道らしい穏やかさを感じる街にスタイルショップ・BLAKISTONはあります。白を基調としたニュートラルな印象と、扱う日用品たちの温もり。その心地よいバランスに惹かれ、昨年の冬、初めての〈札幌キャラバン〉をBLAKISTONにて行いました。この空間を作るのは建築&内装をはじめとしたデザインを行うインテリアデザインユニット/mangekyoの桑原崇さん・児玉結衣子さんのお二人。この居心地の良さを生みだすお二人のお話を伺いました。

――こんにちは。本日はよろしくお願いします。前回のキャラバンではお世話になりました。想像以上にたくさんのお客さまがいらしてくださったのですが、このブラキストンのゆったりとした空間のおかげで皆さまじっくりご覧いただけたのかなと思います。お二人のmangekyoとしての活動における一つの解答として、このブラキストンがあると思うのですが、まずはお二人のここまでの経緯を伺えますか?

こんにちは。よろしくお願いします。キャラバンでは僕らの知らないお客さまとも出会えて、とても面白い会でした。キャラバンのように、建築以外にも面白い活動をしている人たちはたくさんいるので、そうした違う分野の人たちと繋がるという意味がこのブラキストンにはあります。もう一つ、暮らしのことを考えたいという気持ちが強くなって作った場所です。

――なるほど。ブラキストンを始める前、mangekyoとしては東京を拠点に活動されていたこともあったとのことですが、札幌に根を下ろしたのはなぜなのでしょうか。

東京に行った理由としては、やはり商業空間のデザイン業界の中心がほぼすべて東京にあったからですね。札幌で活動していた時から東京の仕事をすることはあったのですが、一度これを体感しておく必要はあると感じました。

――そこで自分たちのやり方に確信を持ったのでしょうか?

はい。デザイナーのスタイルやセンスを打ち出すというのが、基本的な建築業界のやり方で、ネームバリューが大事だったりもする。でも、メジャーじゃなくてもすごく格好いい仕事をする人たちはたくさんいたんですよね。ただメディアが報じるのは前者だったから、僕らが札幌にいる時はその面が伝わってこなかっただけなんだと気づきましたね。

――なるほど。そしてそのやり方は、東京でも札幌でも同じだったのですね。

はい。時間をかけたり、人に会ったりするというのは札幌でも普通にやっていたことでした。このやり方でも格好いい仕事は作ることができると改めて感じて、札幌に戻ってきました。

――もちろん東京でバリバリこなすというのも一つの仕事の形だと思いますが、そうでないところを選ばれたんですね。それは先ほどブラキストンを立ち上げた時にもお話ししていましたが、「暮らしのことを考えたい」という気持ちからですか?

そうですね。今までの生活がひどかった。(笑)豊かなスタイルについてたくさん情報は入ってくるから提案できるけど、自分たちはカップラーメンを食べているみたいな、すごいギャップを感じて。それがこの業界では普通だと思っていました。でもせっかく自分たちだからできる仕事をしに札幌に戻ってまで、自分たちはそのスタイルを続ける必要があるのかということから考え直しました。

――当たり前だった概念も、いちどまっさらに。

単純に自分たちが面白いと思えることだけで、生活を実現させられないかと思いました。人間的な選択というか。

――なるほど。作る以前に、暮らす人としての視点をもう一度立て直したのですね。

正直、自分たち自身も好んで通う飲食店を考え直すと、デザイナーズのお店はむしろ少ないんですよね。周りの人に聞いてみてもほぼ同じ意見で、「汚くていい」「おばあちゃんちみたい」とか。(笑)人に愛される場所と、格好いいデザインは関係がない。じゃあ僕らが作るものの意味ってなんだ?と。

――面白いですね。作る人と、使う人の間に立っているんですね。

はい。そのズレを模索しているうちに、自分たちのデザインの方向性ははっきりとしたデザイナー性とは違うところにあるのかもしれないと感じ始めて。

――確かにmangekyoさんの作るものは、全体的にクリーンさはありますが、インダストリアルな雰囲気だったり温かみが感じられたり……幅広いスタイルが見えますよね。それはあくまでも、主役はデザイナーではなくて、そこを使う人のものだからという考えなのかなとも感じました。

ありがとうございます。若い頃は決まったスタイルがないということが嫌だったこともありましたが、今はそれでいいかなと。昔はそれこそせっかく作ったデザインに合わない時計や壁紙とかちょっとなあって思っていた時もあったけれど(笑)、使う人によって自由にしていい状態がとても面白いと思えるようになりました。そういう意味で、僕らはすごくお客さんにどんな物が好きか求めますね。

――きっとお客さんはお二人に答えてもらおうと思って来ていると思うので、悩まれるのでは?

はい。全部任せようと思ったのにって言われたことも。(笑)でも答えは僕らがかっこいいデザインをすることではなく、お客さんとのプロセスの中にあると思っているんですよね。

――色々な葛藤の先に、自分たちのやり方が見えてきたのですね。例えばどんな変化がありましたか?

この間、デイケアセンターの職員休憩室の改修を依頼されて。小さな水場がある、ただの事務員室だったんです。職員たちが疲弊しているから、癒しの場になるような職場の環境を整えてあげたいという願いがあったんですね。そこでまず、すごく大きなキッチンを作りました。そうしたら、みんな集まってパーティーやったりお酒を飲み始めたらしくて。(笑)

――それはずいぶん雰囲気が変わりましたね(笑)

近所の一人暮らしの方を誘って、お料理教室をやることにしたとか。公民館とかみんなが集まれる場所がそのエリアにないそうで、ただの休憩室ではなくて地域の人に開いた一室になったんですよね。すごく面白い広がりだと思いました。

――なるほど。作り手の手を離れて、空間が使う人のものになって変化していく。

僕らは建物というハードを作るんですが、それが時に中にいる人の意識や行動といったソフトな部分を変えることもある。建物やインテリアが変わることで、自分の中の知らなかった本音に気づいたり、もっとこうしたいという気持ちがふつふつと湧いてくる。そうやってお客さんが自分たちの言葉で、その物について話し始めるのを見るとその人のものだと感じてもらえているのかなと。その変化自体、とても人間味があって興味深いなと思っています。

――その空間は使い手に愛されている気がします。 そしてそのお客さんの変化によって、またお二人の暮らしへの解釈が少しずつ積みあがっていくわけですね。

そうですね。あぁこういう使い方するんだって驚きますし。それを僕らが学びたくて、仕事をしているような気さえします。同じこと続くと飽きちゃうのもあるんですけれど。(笑)

――お二人の暮らしは、先ほどは荒んでいたという時期もあったと聞きましたが(笑)、今はどうでしょうか?

今も実際、時間には追われていますけど、やりたいことしかやらないと決めてそうなっているので楽しくやっています。

――自分たちの暮らしはこのやり方と選択した結果ですよね。お話を伺っていると、お二人はご自分の暮らしも仕事も趣味のように楽しまれているなと思いました。

そうですね、生活と仕事に違いがないかもしれないですね。僕ら暮らしていてもすぐ模様替えとか、色々変えてみるんです。飽きちゃうので。ちょっと前は、床でご飯食べるかってなって。(笑)普段は本当に何もない状態で、ご飯の時にだけトレイを出してその上に置いて食べるっていう生活。……これはあまり良くなかったですね(笑)

――(笑)

そうやって「どれがいいんだ?」という結果を知りたいんです。だから自宅にあるものは自分たちの興味がある物事を試したいというところから来ているから、とても雑多で。そういう意味では僕らの持ち物はどちらかといえばジャンクだし、統一感はないですよね。

――そうやって興味ごとを実際に取り入れ、色々と試してみること自体がお二人の暮らしになっているんですね。

そうですね。今改めて自分たちのものを見て気づきましたが、そもそも機能がいいから欲しいと思うことがあまりないかも。家具にしても食器にしても、ものとして「いいな」と思えることから始まっていて。それを使うとなぜか料理が美味しそうに見えたり、「きれいに盛ろう」と思うようになったり、じゃあ友達でも呼ぼうかという気持ちにもなる。

――確かに、それは機能的であることとは別ですよね。皿という最低限の機能だけで、ただ、かわいいという気持ちだけがある。

はい。だからか、こういう熊の置物とか意味のない、用途のないものばかり集まって……。(笑)でもこういう身の回りの物事から影響を多分に受けて、暮らしは明らかに変わっている。そのことに暮らしながら気づいていって、建築という動きようのないハコを作ってきたんですが、少しずつインテリアやその中身へと興味が向いて、ブラキストンを作るというところに繋がったんですよね。

――すごくよく分かります。そうした気持ちの変化自体が、実はいちばん豊かなのではないかと思います。

そうですね。だから「これかっこいいよね」というミーハー心というか、動機のシンプルさは僕らにとってけっこう大事だと感じています。

――きっと使い手であるお客さんも、同じ気持ちですよね。暮らしを知るために暮らす。それをお客さんとも共有する。とても正直ですね。

確かに、僕らの良いところは正直さかもしれません。でも本当に、僕らが面白いことをしたいというだけで。

――その動機がきっと長く続く理由なのだと思います。今日はたくさんのお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

作り手としての考えが、生活する一人として誰もが共感するような気持ちに裏打ちされたお二人のお話。”暮らしとは、使う人のもの”、そんな当たり前だけれど見失ってしまいがちな視点を、自分たちの成長や実感とともに少しずつ更新しているのだと感じました。「まだ自分自身も模索中」という言葉に表れている通り、 その変化を楽しめるしなやかさは、mangekyoの作るデザインひとつひとつへの向き合いにも重なって、対話する相手の意識へと深く浸透していく。そうして人の本質へと踏み込んだ嘘のないデザインは、物の大小にかかわらず、使う人の意識や行動――ひいては生きることを考える視点を持たせる力なのだと感じました。

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